その数学が戦略を決める/イアン エアーズ

その数学が戦略を決める (文春文庫)
イアン エアーズ
文藝春秋
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 「絶対計算」のお話。なかなか面白かった。2SDで95%とという話は知っていたけれども、それを逆に使う、つまり、正規分布を仮定して、95%の信頼区間標準偏差)から平均を考えるというのは、なるほどなと。

『ヤバイ経済学』の書評家たちは、スティーヴンが独自の視点を持っていると書いたが、それはまさにその通り。数年前、チケットが余ったので、マイケル・ジョーダンシカゴ・ブルズに加わった試合を見に来ないかとスティーヴンを誘ったことがある。スティーヴンは、自分がこの試合に入れこめればもっと楽しめると考えたが、(私とは正反対で)かれはブルズが勝とうが負けようがどうでもよかった。だから試合直前にオンラインで、シカゴが勝つほうに大金を賭けた。これでまさに試合に投資して入れこんだので、オンライン賭博はかれのインセンティブ(誘因)を変えてしまった。 (p.37)

 ガーズ・サンデムは著書『人生の悩みを解決するオタクの公式』で、回帰解析を使って有名人の結婚がどれだけ長続きするかを予測する式をおもしろ半分に作った(結果としては、グーグルのヒット数が多いほど結婚は長続きしない――特に最上位のグーグル検索結果にセクシーな写真が出てくるときには!)。 (p.58)

無作為抽出テストは、直感の終わりではない。単にその直感がテストにかけられるということだ。 (p.105)

 求職支援など無作為抽出テストの成長は、独立州が集まった連邦制という発想がきちんとした「民主主義の実験室」になれrという考え方を初めて実行に移しているということだ。実験室という譬えはつまり、それぞれの州が自分なりに最高と思ったやり方を実験してみて、アメリカ全体としてはそれを見渡してお互いに学び合えばいいということだ。 (p.125)

一九八九年以来、特に症状のない人に対する典型的な年次健康診断で行われる多くの検査は、実はほとんど効果がないことが何十もの調査で示されている。症状のない人に定期検査を行っても全体的な寿命には影響しないようなのだ。年次健康診断のかなりの部分が時代遅れだ。 (p.156)

 だがニューラルネットワークは万能ではない。その重みづけ方式の細やかな相互作用は、一方で最大の欠陥でもある。一つの入力が複数の中間スイッチに影響してそれが最終的な予測を左右するため、一つの入力が予測結果にどう影響しているのかを理解するのはほとんど不可能だ。 (p.242)

 ときには、絶対計算が登場しないのは、ためらいや不合理な抵抗のせいではない。絶対計算どころか統計解析ができるほどの歴史的データがない意思決定はいくらでもある。<中略>絶対計算は、反復型の意思決定の結果分析を必要とする。そして反復事例がある場合ですら、ときには成功を定量化するのはむずかしい。<中略>最大化したいものを計測できないなら、データ主導型意志決定なんかできない。 (p.252)

二〇〇一年の「落ちこぼれゼロ」(NCLB)法は、連邦は、連邦予算のつく教育プログラムは「科学に基づく研究」ということばを一〇〇回以上使っている。「科学に基づく」ものと認められるためには、その研究は「観察や実験から導かれ」、「述べられた仮説に適切な、データ分析を含む」ものでなくてはならない。 (p.279)

権力と裁量は明らかに絶対計算の周辺から中心に移りつつあるが、だからといって絶対計算屋がモテモテになるわけではなさそうだ。 (p.285)

 むかしむかし、私は当時八歳の娘アンナとハイキングにでかけた。<中略>さてハイキング中に私は、彼女がこれまでにこのスリーピングジャイアント登山路を何回登ったか、と尋ねた。アンナは「六回」と答えた。私は次に、その推計の標準偏差はいくつかと尋ねた。アンナは「二回」と答えた。それから考え込んでこう言った。「パパ。さっきの平均値を八回に訂正したいんだけど」 (p.326)

 九五パーセントの信頼区間を推計することで、アンナは平均値についても精度の高い推計を出せた。 (p.330)