勝手にふるえてろ/綿矢りさ

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢 りさ
文藝春秋 (2012-08-03)
売り上げランキング: 12597

 読み終えたときの印象は、物語の結末が全然好きになれないぞというものだった。が、時間が経つにつれて、「イチなんか、勝手にふるえてろ」などのいくつかの文章が心に残っていて、それを思い出すたびになんとも言えない不思議な気持ちになった。好きか嫌いかで言われると、嫌いでもないけど、好きでもない。だが、なぜだか心に残る物語だった。

でもいま手に入れてすらいないうちに彼を失いつつある。告白してふられたとか彼に彼女ができたとか彼に幻滅したわけでもない、ただ、恋が死んだ。ライフワーク化していた永遠に続きそうな片思いに賞味期限がきた。 (p.9)

処女とは私にとって、新品だった傘についたまま、手垢がついてぼろぼろに破れかけてきたのにまだついてる持ち手のビニールの覆いみたいなもので、引っ剥がしたくてしょうがないけど、なんか必要な気がしてまだつけたままにしてある。 (p.80)

私の処女を可愛いと思う男なんか大嫌いだ。 (p.129)

 最後に書かれた文章が圧倒的に印象に残ってたけれども、読み返してみたら、なんどもなんども同じことを言っていることを発見して、いろいろと読み落としていたことに気がついた。

どうして好きになった人としか付き合わない。どうして自分を好きになってくれた人には目もくれない。自分の純情だけ大切にして、他人の純情には無関心だなんて。ただ勝手なだけだ。 (p.115)

 妥協とか同情とか、そんなあきらめの漂う感情とは違う。ふりむくのは、挑戦だ。自分の愛ではなく他人の愛を信じるのは、自分への裏切りではなく、挑戦だ。
 さあ私は、愛してもいない人を愛することができるのか? ううん違う、私はいままでとは違う愛のかたちを受けとめることはできるのか? (p.173)