ルポ 貧困大国アメリカ/堤未果

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
堤 未果
岩波書店
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 貧困の話を読むと、暗い気持ちになってしまう。目を背けたくなる現実がある。発展途上国の貧困の話を読むと、悲しくなるのだけれども、本書の先進国アメリカの貧困の話を読んでいると、それに加えて怖さみたいなものを感じる。

 ふと、思ったのは、不況でインフレという部分。事実はそうなのだけれども、不況でインフレになるかデフレになるかの差はどこから生まれるんだろうかと。

 だが、企業と高額所得者から税金を多く集め、その所得を教育や医療、福祉制度によって中間層に再分配するという政策はやがて不況におけるインフレを招き、それを打開するための新自由主義が登場したことで、アメリカの中流階級の基盤は大きく揺らぐことになる。 (p.13)

 「豊かだから太る」のではなくて、「貧しいから太る」というのもまたなんと言う悲しさ。肥満の向こう側には、貧困という問題があると。

 学校給食という巨大マーケットを狙うファーストフード・チェーンも少なくない。政府の援助予算削減にともない、全額無料では提供しきれずにマクドナルドやピザハットなどの大手ファーストフード企業と契約する学校も増えている。 (p.22)

 二〇〇四年にニューヨークに住む映画監督モーガン・スパーロックは、自らの体を実験台とし、三〇日間マクドナルドのメニューだけを食べ続けるというドキュメンタリー映画スーパーサイズ・ミー』を撮影した。 (p.27)

 ハリケーン被害の話。国民の安全を民間に渡すとどうなるか。

「政府が業務を民間に委託すると、敏速な対応ができなくなります。民間会社の第一目標は効率よく利益をあげることであり、国民の安全維持という目的とは必ずしも一致しないからです」 (p.43)

「高校生たちはどこで働くんですか」
「時給五ドルのマクドナルドで働ければいい方ですが、私のような不法移民は普通の店では雇ってもらえません。家の近くの工場が内緒で雇ってくれています、時給二ドルでね」 (p.56)

 二〇〇三年にイラク戦争が始まると、私は世界中の新聞をチェックした。イギリスの「タイムズ」紙など大手新聞の多くが、理由のはっきりしないこの戦争を支持している記事を読み愕然とする私に、大学院時代お世話になった国際関係論学のブドロー教授h、そんな私を見てこういった。「無知な羊みたいにだまされるな、メディアは国が所有しているとは限らない。ニュースは必ず出所をチェックしろと教えたはずだ」 (p.142)

 日本人の米軍の人の話は、それなりにびっくりした内容だった。

 「別に何の意味もありません。ただ、自尊心を叩き潰すためにやるんです。軍隊では暴力は禁止されているから直接は手を出してきませんが、代わりに精神的に追いつめてゆく。最初に壊してしまえばあとが楽だという理由からだそうです」 (p.180)

 マスコミは兵士たちの愛国心やこの戦争の正義について書き立てていたようですが、格差社会の下層部で苦しんでいた多くの兵士たちにとって、この戦争はイデオロギーではなく、単に生きのびるための手段にしかすぎなかったのです。さっさとやって早く家に帰りたい、怪しい奴がいたらすぐ発砲する、死体は黙って片付ける。兵士たちは、そうやって機械的に考えていました。 (p.184)