クルーグマン教授の経済入門/ポール・クルーグマン

 四苦八苦。

ぼくらは「期待しない時代」に住んでいるのだ。 (p.14)

生産性成長は、アメリカの経済的なよしあしを左右する唯一最大の原因である。でもそれについてぼくたちは何をするつもりもない以上、それは政策課題にはならない。 (p.39)

 この最下層の増大にくらべたら、金持ちや最裕福層の収入増は、あんまり不思議じゃない。高収入を実現する方法はいろいろあるけれど、ほかを蹴倒す大収入源が一つ――ファイナンスだ。 (p.49)

ダブルインカム専門職カップル (p.49)

 失業がそんなろくでもないしろものなら、なぜアメリカは5%以上もある失業率なんかで満足しているわけ?<中略>失業している人たちの仕事に対する需要がないんだと思ったでしょう。そうじゃないのよ。<中略>ただ問題は、インフレを起こさずにそれをやるにはどうしようってことなんだ。失業を減らす一番の障害ってのは、あんまり失業率を下げると、インフレになっちゃうのを連邦準備理事会が心配してるからなの。 (p.54)

「インフレ無加速失業率(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)」 (p.56)

医療はとんでもなく微妙な問題で、道の通った話をしようとしても、すごく危険な感情的・政治的領域に触れざるを得ない。 (p.102)

 でも、問題の大部分はむしろ、組織とテクノロジーのからみあいから話が生じてる。ノーと言えない保険システム、そしてその弱みにつけ込んだ医療技術の発達。 (p.103)

保険はなんでもカバーしてくれるわけじゃないけど、大きなところはだいたいカバーしてくれる。だから患者と医者が治療について話し合うとき、どっちもお金を出すのは第三者だってわかってる。
 さてこういう状況で、すごく高いけど患者を救えるかもしれないテストや治療法があったとしよう。もし患者が自腹で医療費を出してるんなら、その人はやめておこうと思うかもしれない。<中略>
 でも、金を出すのは自分じゃないから、患者としてはとにかくやってみようというわけ。つまりこの方式では、医学的に得られるものと経済的な損失とが、ちゃんとてんびんにかけられてない。 (p.103)

医療技術が向上すると健康保険の掛け金が高くなるので、医療技術の進歩は人を健康保険システムから追い出す方向に作用してるわけ。医療上の技術革新は、むしろアメリカの全体としての健康水準を下げてるかもしれない。だって、派手な新しい治療方法がもたらすメリットは、おかげで保険料が払えなくなってシステムから追い出される人が受ける害にくらべたら、むしろずっと小さいかもしれないでしょう。 (p.105)

 もちろん、大金持ちがぼくたちには手の届かない治療法を金で買えるのは事実なんだけれど、でもそれは、2000ドルの保険に入ってる人は有無をいわさず見殺しにするけど、5000ドル払った人はそのまま、なんてシステムを考えるのとは話が別。金で命が買えるってことをはっきり見せつけるようなシステムなんて、ぼくたちとしては口にするのもちょっとためらっちゃう感じだよね。 (p.107)

 アメリカは、1人あたり支出で見てもGNP比率で見ても、ほかのどの国よりたくさん医療にお金を使ってる。でも、そのわりには大して健康には見えない。 (p.109)

 保護貿易の本当の害ってのは、もっとずっと慎ましやかでつまんないんだよ。それは世界経済の効率を悪くしちゃうんだ。<中略>
 それに、市場がこまぎれになっちゃうから、企業や産業がスケールメリットを活かせなくなる。 (p.175)

 新しい国際経済学は、こういう伝統的な見方が大事なのは否定しない。でも、それに加えて、歴史的な状況から生み出された国としての優位性も国際貿易に反映されるんだってこと、そしてその優位性がいったんできてしまうと、開発や生産のスケールメリットのおかげで、ずっと続くか、あるいは成長するんだと主張する。 (p.181)

戦略的通商政策 (p.182)

 というわけで、日本の多国籍企業に対する告訴状ってのは、あえて作るんならこんな具合になる。日本企業は地元日本が守られてるから、世界のほかの企業より戦略的に有利で、しかもその有利さを使って、海外に生産施設を持つときにも、日本製品を買う方針を貫いてる。 (p.205)

 「日本の自爆」って(笑)。

90年代に起こったことは、だれもまったく予想してなかったことだった。いきなり日本の成長がパタッと止まっちゃったんだ。91年から95年にかけて、日本の経済成長はほぼゼロ。 (p.210)

 19世紀の大資産はゆっくりと築き上がってったし、それはその元となる企業の成長と並行してた。鉄道1キロごと、製鉄所1つずつ、石油精製所1つずつ。80年代の資産は一挙にやってきた。ときにはほんの数週間ほどで。しかもその所有者たちは、まだ十分に若くてその資産を最大限楽しめた (p.249)

返済計画さえちゃんとしていれば、借金って悪いことじゃない。特に企業の場合は。ぼくら庶民が借金して(ローン組んで)車買うよね。これがあまりいい顔されないのは、別にぼくらが自家用車買ったところで、収入には何の影響もないからなわけ。収入というパイが増えないのに、ローンという支払い義務だけは増える。これはまずい。 (p.272)